Last Updated on 2026年7月14日 by top-note
フィットネス業界を例にすると、チョコザップのようにコストパフォーマンスを追求する層もいれば、パーソナルジムのように価格が高くてもサービスの質を求める層もいます。どの業界でも、顧客が「こだわり」を持って選ぶ商品・サービスであれば、多少の値上げは受け入れられる余地があります。
しかし、コストプッシュを理由にした値上げを何度も繰り返すことには限界があります。
値上げのたびに顧客が離れていけば、ブランドは疲弊していきます。
そこで有効になるのが「香りによるブランディング」です。
香りは記憶に残りやすい情報であるため、特定のブランドとそのブランドを体現する香りをセットで顧客の記憶に刻み込むことで、ブランドロイヤルティの向上を狙うことができます。
そもそもブランディングとは何か?
喉が渇いたときに「スポーツドリンクが欲しい」ではなく「ポカリスエットが飲みたい」と思う——このように、顧客が他ブランドとの比較というステップを飛ばして、そのブランドに直接飛びつこうとする状態を作り出せれば、ブランディングは成功していると言えます。
顧客が比較検討をスキップするようになれば、インフレの時代でも価格転嫁がしやすくなります。そして、価格転嫁をしても顧客が大きく離れないのであれば、それはさらに強いブランドだと言えるでしょう。
香りは、この「比較をスキップさせる」力を持つ数少ない感覚的な要素です
香りブランディングとプルースト効果
特定の匂いを嗅ぐことで、過去の記憶や感情がフラッシュバックのように呼び起こされる現象を「プルースト効果」と呼びます。
フランスの作家マルセル・プルーストの小説で、紅茶に浸したマドレーヌの香りから主人公が幼少期の記憶を鮮明に思い出す場面に由来する言葉です。
嗅覚は五感の中でも特殊な感覚器官で、脳の感情や記憶を司る部位に直接つながっています。
国際的な調査機関ミルワード・ブラウンの調査(2009年)では、人間の感情の75%は嗅覚に由来するとされています。
また、人間の鼻は1兆種類以上の匂いを識別でき(Bushdid et al., Science, 2014)、1年後でも65%の精度で匂いを記憶しているという研究結果もあります。
視覚や聴覚に比べて圧倒的に記憶に残りやすいのが嗅覚です。
「特定のブランド=その香り」という結びつきを一度作ることができれば、店舗に足を踏み入れた瞬間、あるいはどこか別の場所でその香りに出会った瞬間に、顧客の中でブランドの記憶がよみがえります。
これが香りブランディングの核心です。
データで見る、香りが店舗にもたらす4つの効果
香りブランディングが単なる「良い香りがして気持ちいい」という感覚的な話にとどまらないことは、海外の調査データからも裏付けられています。英Ambius社(Rentokil Initial傘下)が5か国3,750名を対象に実施した調査(”The Business Impact of Scent”, 2016)をもとに、香りが店舗にもたらす具体的な効果を整理します。
1、来店客数(集客力)の向上
同調査では、約4人に3人(74%)が「香りに誘われて店舗に入った経験がある」と回答しています。一方で、約35%は不快な匂いがすれば即座に退店すると回答しました。ここでいう「不快」は悪臭だけでなく、空間のイメージに合わない香りや強すぎる香りも含まれます。良い香りは人を引き寄せ、合わない香りは人を遠ざけるということです。
2、滞在時間の延長
パリの老舗百貨店ギャラリー・ラファイエットでは、店内に香り演出を導入したところ、実際に40分間滞在した顧客が「25分くらいだった」と体感するという結果が報告されています(Lindstrom, 2005)。カリフォルニア大学のSpangenberg教授の研究でも、心地よい香りのある空間では消費者が実際の滞在時間を短く見積もる傾向が確認されています。滞在時間が長くなれば、それだけ商品との接点が増え、購買の確率が上がります。
3、ブランド評価・商品価値の向上
ある実験では、同じナイキのランニングシューズを2つの同一の部屋に配置し、一方にだけフローラル系の香りを漂わせました。結果、被験者の84%が香りのある部屋の靴を好み、推定価格も平均で約10ドル高く見積もったと報告されています(Lindstrom, 2008)。同調査では「お気に入りの店舗の最大の魅力」として42%が「雰囲気・アンビエンス」を挙げ、レイアウトやスタッフの親しみやすさを上回りました。
4、リピート率・ブランドロイヤルティの強化
調査では73%の消費者が「香りによって即座に記憶や感情が呼び起こされた経験がある」と回答しています。これは「自分は匂いに鈍感だ」と自認する層の51%にも当てはまりました。4〜5つの感覚に訴えかけるブランドは、消費者の60%にファーストチョイスとして選ばれるという研究結果もあります(Blondeau & Tran, 2009)。香りは一度記憶に刻まれると長期にわたってブランドとの感情的なつながりを維持するため、リピート来店やロイヤルティの向上に直結します。
業界別に見る、香りブランディングの活用シーン
ホテル — ロビーの第一印象が再訪を決める
ホテル業界では、ロビーや共用部にブランド統一(シグネチャーセント)の香りを漂わせる取り組みが一般的になっています。実際、592名を対象にした調査でも、香りがホテルの集客・宿泊満足度に影響を与えることが明らかになっています。
あるホテルブランドではエレベーターホールなど複数の共用部に一貫して香らせています。
これは単に「良い香りがする」という演出にとどまりません。世界のどの都市のホテルに宿泊しても同じ香りに包まれることで、宿泊客の記憶の中に「●●ホテル=この香り」という結びつきが形成され、次の宿泊先を選ぶ際の無意識の後押しになります。会員制・多店舗展開のホテルチェーンほど、香りによる横断的なブランド体験の統一が効果を発揮しやすい業態だと言えます。
小売店舗 — 香りが「もう少し見ていこう」をつくる
小売業では、ブランドの世界観に合わせた香りを店内に漂わせることで、ECでは再現できない没入感のある体験を作り出せます。
アウトドア系アパレルブランドであれば、山や自然を連想させる香り(ウッディ系やグリーン系のノート)を選ぶことで、店舗に足を踏み入れた瞬間から「これから始まるアウトドア体験」を予感させることができます。
一方、女性向け下着ブランドでは、フルーティーフローラル系の華やかで女性らしい香りが定番です。海外の大手下着ブランドでは、長年にわたり店舗にシグネチャーフレグランスを漂わせる戦略を取り、新作の香水を発売するタイミングに合わせて店内の香りそのものを切り替える例も見られます。フローラル系の香りが店内を包むことで、女性らしい世界観を、視覚だけでなく嗅覚からも伝えています。
オリジナルの香りはどう作るのか
「オリジナル香り」を作りたいというニーズに応える際、実際には2つのケースがあります。
① まず既存の香りで反応を検証してから開発に着手する場合
複数のテスト店舗を用意し、それぞれ異なる香りをかけて顧客の反応を見ながら、どのジャンルの香りが合うか大きな方向性を確認していきます。
② 最初からオリジナルの香りを開発したいというニーズが固まっている場合
この場合は主に3つのアプローチがあります。
- ブランドイメージ・店舗の内装・ターゲット顧客層の年齢や性別に合わせて、弊社側から香りを提案する
- お客様側で見本となる香りを用意していただき、それに近づけていく。ただし香りの世界は0.1%の違いでも別ものに感じられるため、見本と完全に同じ香りを再現することは難しい点はご了承いただく必要があります
- FUWARIの既存の香りをたたき台として、そこにどんなアレンジを加える・引くかを提案する
いずれの場合も、「香りの方向性を決めてから量産する」という段階を踏むことで、狙い通りのブランド体験を作ることができます。
香りグッズの販売で、店舗の外までブランド体験を広げる
「店舗と同じ香りの商品が欲しい」というお客様のニーズを確認できたら、リードディフューザーなどの香りグッズを販売するという選択肢もあります。自宅でも店舗と同じ香りを楽しんでもらうことで、ブランドロイヤルティはさらに高まります。
販売が順調に進めば、店舗で使用しているディフューザーのレンタル代以上の売上を香りグッズだけで回収できる可能性もあります。
例えばFUWARIの場合、リードディフューザーはオリジナルボトルで最低500本からの制作が可能です。500本の仕入れは在庫リスクが大きいと感じる場合は、FUWARIの既存ラインナップの香りであれば、30本以上・15本単位からお客様のロゴを貼って納品することもできます。
FUWARIの導入モデルについて
香りブランディングを始めるにあたっては、空間の広さに合ったディフューザー選びも重要なポイントです。
ライティングレールへの取り付けや壁付けなど、店舗の状況に応じて設置方法を選べる点も強みです。また、香料は1斗缶単位で仕入れますが、在庫回転が遅いと香りの質が劣化してしまうため、長くても6か月で使い切っていただけるよう上記の最低ロットを設けています。
まとめ — 香りは「比較させない」ための投資
店舗の香りは、来店数・滞在時間・ブランド評価・リピート率という4つのビジネス指標に影響を与えることが、複数の海外調査と国内事例の両方から裏付けられています。そして値上げが難しい時代において、香りブランディングは「顧客に他ブランドとの比較をさせない」ための数少ない有効な手段のひとつです。
香りという目に見えない要素だからこそ、価格競争から一歩離れた場所で差別化ができ、お客様の記憶に長く残ります。まずは自社の空間に合う香りを見つけるところから、香りブランディングを始めてみませんか。
